機動戦士ガンダム 「蒼き天地を翔けて」
〜もう一つの一年戦争〜


第一部  「開戦」


第一章



4月30日 一〇三八(日本時間) 日本海上

 それは突然起こった。
 竹島の北約100kmの海上に浮かぶ領海監視ブイは、十分前からレーダーで捕捉していた帰属不明船の姿を見失った。
 ブイに搭載されたAIは、その異常を定期通信にのせ送ろうとしたが、強烈な電波障害に巻き込まれていることを認識した。
 数分後、ブイの音響センサーは真横をスクリュー音が通り過ぎていくのを観測した。


同日  一○四五 航空自衛隊大阪基地

 コロニーの破片の一部が旧東京都に落着し、滅多に拝めなくなった青空の下、翼を上空と同じ青系の迷彩模様に塗装された七機の戦闘機・VFN-74F[はやぶさ]が訓練飛行のため、最後の打ち合わせを行っていた。

「今回の訓練は、昨日も確認したように日本海上で二個小隊に分かれての模擬戦闘後、難波二尉が最も嫌いな空護艦[わかさ]への着艦訓練。補給を受けた翌日は能登半島沖200kmで、同じく難波の嫌いな対艦攻撃演習だ」
 特務航空集団所属、第二遊撃飛行隊『ブルー・ウィングス』隊長の高橋孝平(たかはし こうへい)一等空尉は、正面のモニターに写る各隊員の顔を見ながら言った。
「ホンマけったいなヤツやな〜。わざわざ人の弱みばかり強調しやがって」
 関西弁丸出しで子供みたいに口を尖らせて反論するのは、二号機に乗る難波圭輔(なんば けいすけ)二等空尉。
高橋一尉と同じ大阪出身で同期の友人だ。
「いいじゃないですか、事実なんですし。難波二尉以外に迷惑はかかってませんよ」
 三号機のベテランパイロット、上野将史(うえの まさし)空曹長がからかい気味に口を挟んだ。
「難波二尉の着艦訓練や対艦攻撃演習はすごく勉強になるんですよ。パイロット養成所の教材にも採用されてますからね」
 同じく四号機のベテラン、竹川恭之(たけかわ きょうすけ)一等空曹が落ち着いた口調で難波をなだめようとする。
「ああ、やってはいけない見本としてな」
 最年長、副司令兼零号機パイロット、瀬川達彦(せがわ たつひこ)二等空佐が苦笑しながら呟いた。
 彼の操縦する零号機はVFN-74E、[はやぶさ]の複座式早期警戒管制(AWACS)機である。

「でも、空戦演習はあんなに自信満々なのに、どうして艦(ふね)が絡むと苦手なのかな?」
 第二飛行隊三人娘(難波命名)の一人、六号機の福原佳織(ふくはら かおり)二等空曹が誰に言うでもなく問いかけた。
「決して同じパターンがないから、かな。シミュレーションの再現にも限界があるし」
 佳織に真面目に返したのは、三人娘二人目、五号機の橘夏美(たちばな なつみ)三等空尉。
「二号機の着艦は[わかさ]の甲板員にも評判悪いんですよね。竹川さんの言った教材、実は私が作ってるんです」
 三人娘最後の一人、零号機オペレーターの福原香奈(ふくはら かな)空士長がしみじみと語る。

 [わかさ]とは、高橋たち第二遊撃飛行隊の本隊、特務航空集団に所属する第二航空艦隊の旗艦、航空機動護衛艦の一番艦である。

「上野さんや副司令はともかく、香奈ちゃんまで……オレ、もう泣きそう……」
「確か明日の相手は……第一地方艦隊だったか?」
 一人泣く難波を無視して瀬川二佐が話を進める。
「はい、第一地方艦隊所属、護衛艦[いそかぜ]を旗艦とする第一警戒戦隊です。[いそかぜ]は最新型イージスシステム搭載ミサイル護衛艦の一番艦で、過去50回の対艦攻撃演習では負け無しです」
 瀬川に聞かれ、香奈が各機のモニターに[いそかぜ]のデータを表示させながら答えた。その華々しい戦績に皆はうなり声を上げた。

「げぇっ、第二三艦攻中隊まで引き分けてるやん!てか対艦演習に引き分けなんかあったっけ?」
 難波は顔を青くさせつつも首を捻った。

 ちなみに第二三艦攻中隊とは、部隊創設時より名だたる海戦にて抜群の戦績を収め、幾度も地球連邦海軍を恐怖に陥れた伝説のエース部隊である。

「双方とも損失ゼロのまま残弾がなくなり、演習を観戦していた早瀬統合幕僚長が引き分けと認定しました。対艦演習での引き分けは史上初です」
 香奈の言葉に、その場にいたパイロット全員が「ほぉ〜」と驚嘆の声を上げた。高橋も驚きながら改めてモニターに映るデータに見入った。

 この演習には第二三艦攻中隊から三個小隊、第一警戒戦隊は所属する護衛艦三隻とも参加している。
第二三艦攻隊のNSA-70[かもめ]は各小隊に、73式ハイパー酸素魚雷四本を装備する一機と72式空対艦ミサイル十発を装備する二機の編成で構成されている。
 [いそかぜ]率いる第一警戒戦隊は、都合十二本の魚雷と六十発の対艦ミサイルから身を守ったということになる。
実弾ではなく、コンピュータのシミュレーションと連動させた仮想弾ではあるが。

「うわ〜、これじゃ難波さんだけじゃなく、私もやられそう」
 なんとなくぼやいた佳織の言葉に、見るからに沈んでいた難波が噛み付いた。
「オイコラ、福原ァ。黙って聞いてたらけったいなことばかり言いやがって!! 俺が誰にやられるって!?」
「えへへ〜、根が素直な者で、つい」
「えへへ〜、やない!! てことは心の底から『やられる』って考えてるんやないか! コノヤロ、いままでその笑顔にだまされてきたが、今度こそ許さん! 名誉毀損で訴えてやるッ!!」
「これまで『撃墜』されてるのは事実なんだから、名誉毀損もないだろう」
 いつもどおりの展開に全員苦笑する中、高橋は難波をなだめかかったが、難波はますます猛り狂う。
「高橋、ここまで部下に言われて黙ってられるんか!? 名誉毀損は無理でも、立派な上官侮辱やないか!!」
「さぁ……お前みたいに言われたことないからなぁ」
 高橋がとぼけてあごをさすりながら答えた直後、けたたましくサイレンが基地中に鳴り響いた。

「第一次警戒警報!?」

 とっさに、反応した難波が通信機を共通回線につないだ。こういうときは妙に素早いなぁ、と高橋は心の隅で思った。
 通信機からは、警告音と共に女性管制官による日本語と航空管制語の通信が流れる。

『大阪基地、および付近を航行中の航空機。こちら関西レーダー。航空自衛隊・西日本作戦司令部が関西地区に緊急事態宣言を発令しました。
 航空法に基づき、航行中の航空機は当局指定空域から速やかに離脱しなさい。
 大阪基地は新自衛隊法により第二級警戒態勢に入ります。民間機は各スポットで待機してください。JASDF Osaka Airbase and...』

「大阪タワー、こちらブルー・ウィングス01! 何があった!」
 高橋が通信機に怒鳴ると、モニターに基地主任管制官・神崎恵(かんざき めぐみ)三等空尉が出た。隣のモニターには第二遊撃飛行隊司令・神島彰弘(こうのしま あきひろ)一等空佐が映る。
「西日本作戦司令部からブルー・ウィングス全機にスクランブル発進命令が出ました。これから実弾に換装します」

 外を見ると、格納庫からすでに整備士の乗る車がこちらに向かってきていた。難波はその中の整備班長・小林徹(こばやし あきら)三等空尉に声をかけた。
「小林さん、何分かかる?」
「30ミリを実弾に換えて、ミサイルロックシステムを解除するだけだ。3分で終わらす!」
 ベテラン整備士である小林が即答している間に、神崎は説明を続ける。

「スクランブル要請をしたのは竹島防空陣地。一○四○に竹島北100kmで所属不明艦による領海侵犯を確認。要請の通信直後、竹島防空陣地第一ニ四警備小隊との通信は途絶しています」
「『敵』からの侵攻か?」
 上野が今考えられる一つの可能性を言った。
 上野が戦った戦争のとき、『敵』は連邦軍だけだったが、今はもう一つ『敵』が存在している。
「[あきつしま]に確かめたが、竹島にそのような様子は見られない。ただし、光学以外のレーダーやセンサー等の観測装置が竹島周辺の海域ですべて無効化されたそうだ」
 関西レーダーと交信している神崎に代わって、神島一佐が説明した。

 日本上空の静止軌道を周回する総合宇宙ステーション[あきつしま]には、日本全国、建造物地下以外すべて見ることが出来る、高性能大型光学カメラが搭載されている。本来、気象予報やカーナビ・システムに利用されるもので、竹島が攻撃を受けたか否かを確認するのは造作ない。しかしレーダーが無効化されるということは……、

「そ、それってまさか、ミノフスキー粒子……」
 佳織のつぶやきと同時にその場にいた全員が同じ答えを頭に浮かべた。
 難波は一ヶ月前に聞いた連邦兵の話を唐突に思い出した。上海基地から撤退してきたそいつは恐怖からか、うわ言のように呟いた。

『や、やつら、とんでもねぇもん見つけやがった』

 ミノフスキー粒子。宇宙戦闘の基本戦術を根底から変えた新粒子は、地上の戦闘にも多大な影響を与え、徹底的にデジタル化された連邦軍部隊は、対抗策を見つけられず、各戦線で敗北を続けていた。

「その可能性はある。上野君が言った『敵』は、ジオン軍である確率が高いだろう。隠岐諸島に待機中の第二航空艦隊にも、至急現場海域に向かうように要請している。今回の事件が、昨今騒がれているジオン公国との開戦に繋がるかも知れん。各員、充分注意しろ」

「こちら大阪タワー。換装作業終了確認。ブルーウィングス全機に発進を許可します。W-1地点に移動、待機してください」
 神島司令の言葉に神崎管制官の声が重なる。スクランブル要請から3分半。

「ラジャー、発進許可確認。W-1で待機する」

 アイドリング状態のエンジンを作動させるとわずかに吸気音が高くなり、七機の戦闘機は一列になってゆっくりと滑走路へ向かって動き出した。
 スクランブルにあわせて離陸を禁止され、誘導路上で待機している旅客機を横目に、指定ポイントにたどり着いた。

「ブルー・ウィングス、現在滑走路上に一般旅客機はありません。滑走路進入後、順次離陸してください。お気をつけて」
「ラジャー。ブルー・ウィングス01、発進する!」

 滑走路に進入後、高橋は左手で握っていたスロットルレバーを一気に手前にひいて、瞬時に出力を最大にする。
 コックピットの外の景色がゆっくり後方に流れると同時に、コックピットに座る高橋の身体は全身にかかるGによってシートに押し付けられる。

「クッ」
 肺の空気が押し出されたようなうめき声を出したその時、急激な加速によって揚力を得た翼が、フッと機体を上へと持ち上げた。
 強烈なGから、ある程度開放された高橋は、機体の姿勢を建て直し、基地上空をゆっくりと旋回させ始めた。
 全ての機体が離陸し、素早く編隊を組んだ後、高橋は零号機を通じて全ての機体に通信を入れた。

「班編成は、一号機と四号機は一班、二号機と三号機が二班、五号機と六号機は三班だ。班内通信以外は全て零号機を通せ。武器の安全ロックは別命あるまでロックしておけ。零号機の直掩は三班に任せる。日本海上空に出たら、零号機は[わかさ]との通信回線を開いておけ」
 通常は発進前にする確認事項を、多少端折って一気に言い切った。何も言わないのを「意見なし」と見て、さらに続ける。

「よし!ブルー・ウィングス出撃!!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」
 高橋の言葉に答えながら、パイロット達は一斉にエンジンの推力を解放した。
 七機の戦闘機は72式ハイドロジェットエンジンの甲高い給気音を残しながら、一気に加速していく。

 大阪基地では神島司令以下、全ての航空自衛官が、北の空へ飛び去っていく七機の戦闘機を挙手敬礼で見送っていた。


同日  一○五五 陸上自衛隊石垣島駐屯地

 その頃、陸上自衛隊・南西方面隊第一五旅団所属、第一機械化混成大隊が駐屯する石垣島駐屯地も、数分前から緊張と困惑の空気に支配されていた。

 石垣島のほぼ中央に位置する、於茂登岳のレーダーには何も反応がないにもかかわらず、地元漁師から潜水艦の発見が報告されたのだ。
 平時において海上自衛隊はもちろん、たとえ連邦軍の潜水艦であっても、日本の領海・排他的経済水域内での潜水艦訓練を含む航海を行う際、自衛隊基地を通じて、民間船舶に訓練海域や内容などを事前に報告する義務が、新自衛隊法で定められている。
 それと引き換えに、民間の船舶は事前報告以外の海域で潜水艦の存在を確認した際、最寄の自衛隊基地に報告する義務が海洋・船舶基本法で定められている。

 こうした自衛隊と民間船舶との相互協力で、平時における日本の海上防衛の基本態勢が整えられている。

 いまやジオン公国首脳部と、日本自治国政府との極秘会談は失敗に終わり、万が一の侵攻に備えての訓練が連日繰り返されている状況で、所属不明潜水艦発見の報は、報告を受けた石垣島駐屯地ばかりでなく、自衛隊を統括・指揮する防衛省・統合幕僚監部を揺るがすには充分すぎる材料だった。
 報告を受け石垣島駐屯地司令兼第一機械化混成大隊長・金城豪(きんじょう つよし)二等陸佐は、潜水艦が見つかった海域に近い石垣島北東部に偵察部隊を派遣していた。

「なにやってんだ、偵察部隊のヤツラ……」
 石垣島駐屯地の司令室の上段にある司令席で、金城二佐は肘掛を苛立たしげに指先で叩きながら誰ともなしにつぶやいた。
冷房の利いた涼しい部屋にもかかわらず、浅黒く日焼けした顔に汗が流れているところを見ると、相当熱くなっているのがわかる。
 空自(航空自衛隊)が保有する於茂登岳のレーダーに何も映ってないと判明した時点で、金城はジオンが来たと直感した。
この時期、レーダーに引っ掛からずに接近してこれる部隊は他にない。

「すでに島の近くで潜水してる可能性もありますな」
 金城のとなりに立つ副官の入南風野浩紀(いりはえの ひろき)三等陸佐が、金城のつぶやきに落ち着いた声で答えた。
およそ陸上自衛官とは思えない、全体的にまるい風貌は、見る者に信楽焼のたぬきを連想させる。
 豪快で短気な金城と、菩薩のごとく穏やかな入南風野、二人の絶妙なバランスの上に、この基地の平穏は保たれていた。

「……そうだな。偵察隊を海に潜らせるか」
 入南風野の落ち着いた口調に、金城は落ち着きを取り戻した。

 その時、司令室の下段にある通信管制所で、忙しく働く通信士の一人が、インカムを投げ捨てながら、輝く笑顔でこっちを振り返った。
腰まで届くほどのうっとうしい長髪だから……二等通信士の上原香苗(うえはら かなえ)陸士長か、と金城は思った。

「……あっ、大隊長!那覇陸海空合同基地の大里司令との通信回線が繋がりました!」
 なかなか繋がらない通信装置に、イライラとしていた通信分隊の面々が、おおっ、と一斉に歓声を挙げた。
これもミノフスキー粒子の影響か、調子の悪いレーダーと同じく、通信機も島外へのほとんどの回線が不通になっていた。
 通信分隊の歓声に、金城も思わず腰を上げた。

「よっしゃ!上原、よくやった!メインに回せ!」
 初めて聞いた隊長の褒め言葉に、今年大学を出たばかりの上原は、嬉しさで照れながら機器を操作する。
「了解っ。[あきつしま]の回線ですが、こちらも調子が悪いらしく、音声しか交信できないようです」

 数十秒後、司令席の正面の壁に取り付けられたメインモニターが、石垣島と周辺海域の地図のみを表示していた画面を半分に分割し、片側に白黒の砂嵐を映し出した。
時々人影がちらつくのを見ると、これが沖縄本島の陸海空合同司令部(那覇司令部)に繋がっているのがわかる。

「こちら、那覇陸海空合同司令本部、陸上自衛隊南西方面隊司令、大里勝哉(おおさと かつや)三等陸将だ」
「石垣島駐屯地、陸上自衛隊南西方面隊第一五旅団所属、第一機械化混成大隊・大隊長、金城豪 二等陸佐です」
 お互い名乗りあった直後、大里が突然噴き出した。その様子は音声として石垣島の金城にも伝わる。

「な、なぜ笑う!?今笑うところがあったのか?」
「いや、お前の姿を想像しながら今の言葉聞くと、思わず」
「失礼な!目上の者に敬意を払うのは当たり前だろうが!」
「ほぉ〜、年上の隣人に毎日喧嘩売ってきた人間の言葉とは思えませんな〜。ほとんど勝つのは俺だったけど」
「貴様、またそんな古い話を部下の前で……」
 金城の顔がどんどん赤黒く染まっていく。二人の言い合いにポカンとしていた司令室の人間に、入南風野が落ち着いた声で説明する。

「まぁ、知らないと驚くのは無理はないが、私も含めて司令達は石垣島出身の、いわゆる幼馴染ってヤツだ。家も隣同士で、大里司令と金城隊長はこんな感じでよく喧嘩してたよ。いや〜懐かしい」
「ひ〜ろ〜き〜、お前までいらない事を……」
「おお、久しぶりだな入南風野君。そっちの状況はどうかね」
「正直なところ、かなり危ないですね。上原君、同じ回線を使って、こちらの情報を那覇に送ってあげてくれ」
「俺を差し置いて、話を進めるな!」
 怒りが治まらない様子の金城に、大里は大げさなため息をつく。

「金城〜。いくつになっても変わらないのはいいが、貴様の誇る優秀な部下の前でそんな醜態を晒していると、誰も付いてこなくなるぞ」
「誰がここまで怒らせたんだよ……」
 金城は相変わらず頭に血が上っていたが、そんな場合ではないことをようやく思い出した。

「ふーむ。漁協連合放送で、所属不明潜水艦発見の報告はキャッチしていたが……於茂登レーダーにも反応がないのは怪しいな」
「それどころか、いまやレーダーが完全に無力化された。通信回線も障害を受けて、西表とは全く連絡がつかない」
「通信機の故障じゃないのか?」
「西表、石垣、宮古の三島の基地の通信装置は、昨日一斉に点検・修理を行ったよ」
「それでも不調ということは……ミノフスキー粒子か?」
 大里が自分と同じ考えに至ったことに、金城はニヤリとする。
「ジオン軍しか考えられないだろ?」
 若干楽しそうな金城の声に、大里は再び大きなため息をついた。
「ついに噂が現実になるか……」

 しばしの沈黙が訪れた。しかし、それを打ち破るように、通信機の向こうから騒がしい音が聞こえてきた。
 先ほどと比べると、少し砂嵐が減って、白黒の那覇司令部の様子が映った。

「金城っ、今すぐ[あきつしま]の緊急レーザー回線111番を開け!」
 白黒の画面に、珍しく焦りの表情を浮かべた大里の顔が映った。
 金城はその形相に驚き、即座に通信隊に指示する。

「戦自(戦略自衛隊)からの情報では、ジオン国営放送キャリフォルニア支局が、地球圏共通放送で約一分後に重大放送を行うと発表したらしい」
 白黒の大里の顔を映していた画面が、ジオン公国の国旗が中央に掲げられた会見場の様子をカラーで映した。

 メインモニターの左上にあるデジタル時計が午前10時59分30秒を表示した時、大佐の階級将をつけたジオン軍将校が一人、中央の席に腰を下ろした。
 すっきりした顔立ちの美青年――ジオン公国地球方面軍司令、ガルマ・ザビ大佐がこの演説の主役だと、見る者全てが理解した。

 日本標準時刻は午前11時00分になろうとしていた……。