『幻想戦国陰陽伝』
『幻想戦国記』
『妖斬剣士』
『陰陽の剣』
『陰陽剣士』
これ全部 仮称 (コラ)
まだ、決定してないんですよ・・・・・・

以前から何度も日誌上で言ってきた、「東洋風ファンタジー」の導入編です。まだタイトルもまともに決まってません。
受験勉強真っ只中の高校三年のある日、真夜中に目が覚めて眠れなくなったので、勉強はせずに2,3時間ほどで書き上げたものです。
本編からは約40年前のお話で、現実の日本史のどこにパロディを入れようかと模索して出来上がりました。
一周年とはいえ、なにもなかったので、せめてもの償いとして公開することになりました。
文面はほぼ、書き上げた当時のままです。


元和元年(1615)夏、幕府の大御所として天下を握る徳川家康は大坂城の南、大坂が一望できる茶臼山の本陣に座していた。
家康が見つめる先には、四方からの攻撃に黒煙を吹き上げている大坂城と、戦場となった大坂のまちが広がる。

「そろそろか」
「御意」
ニヤニヤしながら言う家康に、背後に控える懐刀・本多正純が、こちらも微笑を絶やさず答える。
『難攻不落』と謳(うた)われた天下の名城・大坂城の、今にも落城しそうな様子に、同じ戦場にある本陣にもどこか安堵に似た空気が広がっていた。

それを最初に見つけたのは意外にも本陣の一番奥に座る家康であった。
「なんじゃ、あれは」
家康の見つめる先には騎馬か歩兵と思われる赤い群れが土煙を上げながらこちらに向かってきていた。
先頭を駆ける赤い騎馬兵の背負う旗が見えてきた。

 ―――その文様は六文銭―――

「さ、真田隊だ!」
兵の一人の叫びに本陣全体がどよめいた。
大坂のまちを真一文字に突っ込んで来る騎馬隊の勢いにおされ、行く手を阻む兵の群が慌てて脇へと逃げていく。
「なにをやっておる!早く詳細を知らせい!」
突然の出来事におろおろする家臣たちに家康は声を張り上げた。
本陣のすぐ近くにある、徳川秀忠の陣からはすでに戦(いくさ)の音が聞こえてきていた。

やがて、騎馬隊と接触した部隊からの報告が来る。
「申し上げます!大坂方の真田信繁(幸村)隊およそ五百が――」
ドドドドドッ
「御免!」
兵の報告を遮るように別の兵が馬に跨り陣幕の中に飛び込んできた。
「何事じゃ!」
正純の怒鳴り声に、その兵は馬から転げ落ちるようにひれ伏した。
「申し上げます!大坂方の双賀守澄(そうが もりずみ)と淀津将成(よどつ まさなり)の手により、御将軍様、本多正信様御討ち死に!」
「何と申した!」
予期せぬ悲報に、家康は立ち上がり叫んだ。
陣中に控える家臣らの顔も一様に蒼ざめている。
「……その方、それは真なのか」
激昂して呆然とその場に立ち尽くす家康に代わり、正純が震えた声で兵に問いただす。
足元で伏せている兵は悲痛な顔を上げて答えた。
「拙者は正信様に御仕えする川越清兵衛と申す者。四半刻前に御将軍様本陣に、双賀勢と淀津勢四百が攻め入り、将軍様と正信様が討ち取られました」
「たわけ!何故もっと早く知らせなんだ!」
家康は怒りに身体を震わせ声を荒げた。
「正信様がお知らせなさろうとしたのですが、将軍様はこれほどの敵は我らの手勢で充分、と仰られまして――」
「あの愚か者が……」
「御将軍様お討ち死にによりわが本陣は総崩れでございます」
「あの城ももうじき落ちると申すに……」
勝利が目前に迫ったときにきた報告に、家康は不意に目の前が暗くなるような気がした。
清兵衛は役目を終えたと見ると、突然鎧を脱ぎ捨て始めた。
「何をする気だ。大御所様の御前であるぞ」
鎧を脱ぎ捨て、鞘に入ったままの脇差を手に取った清兵衛に正純が問う。
「君命を果たしましたゆえ、わが主君に殉じ切腹を……」
清兵衛は何か文句あるかと言わんばかりに脇差をすらりと抜き放った。
「ま、待たれよ清兵衛どの。はやまるでない」
正純は慌てて清兵衛に駆け寄り、今まさに腹に突き立てんとする腕をつかんだ。
「主君に殉ずる心は天晴れなれど、今しばらく待たれよ」
清兵衛の腕に力がなくなったのを手のひらに感じ、正純は手を離した。
「簡単でよいから教えてくれ、わが父・正信の死に際を。その後切腹するならば、わしが介錯を務めよう」

(ああ、コイツが正信の息子か)
人を斬ったことがなさそうな正純の目を見つめながら男は思った。
家康の方を窺(うかが)うと、家康はすべてを許すように静かにうなずく。
(愚かな者どもだ。これが本当に父の言う古狸(ふるだぬき)なのか)
かすかな疑念を振り払い、男は口を開く。
「わかりました。正信は……」

刹那、白刃がきらめき、ドガッという鈍い音が響いた。

「こうなりました」

男が立ち上がると同時に、ゴンッと正純の首が地に落ちた。

「き、貴様何者じゃ!」
家臣が声も出ない中、一人家康が刀に手をかけ声を張り上げた。一呼吸置いて、周囲の家臣も刀に手をかける。
男は右手に歯の短い刀――忍者刀を逆手に持ち、左手で懐を探りながら、口元に不敵な笑みを浮かべた。
「お初にお目にかかり申す、古狸殿。拙者、秀頼様に仕えし真田左衛門佐信繁の長男――」
その場にいる者がギョッとすると同時に、男は懐から取り出した黒い玉を前に放り投げ、無造作に――しかし誇らしげに――言い放った。
「真田大助幸昌なり!」
家康の目前に転がった黒い玉から、もくもくと立ち上った煙の中に幸昌が飛び込んだ。
家臣がオロオロとする間に、煙の中から再び骨を断ち切る鈍い音が響いた。
煙が晴れたとき、地面には首のない死体が二つ、血の海の中に転がっていた。

大坂城の天守はあちこちから赤い火を噴き出し燃え上がっていた…………。

第零章


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